アパートを借りていますが、今度退去します。敷金を返してもらえますか。「ガイドライン」というものがあると聞きました。 何かの役に立つのでしょうか。
賃貸借契約が終了した場合、敷金から賃料の未払分や原状回復費用を差し引いた残額が、退去後、大家さんから借主に返還されます。ここで問題となるのが、借主がどの範囲まで原状回復義務を負い、その費用を負担するのかということですが、大家さんと借主の間でトラブルになるケースも多いことから、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(平成10年3月)」で、原状回復の費用負担のあり方について妥当と考えられる一般的な基準を示しています。このガイドラインは、法的強制力があるというものではありませんが、多くの裁判で、これに沿った敷金返還等の判決がみられます。
「東京ルール」という言葉を聞きましたが、何のことですか? 私は今度都内でアパートを借りるつもりですが、 何か影響がありますか?
「東京ルール」とは、本来、東京都における賃貸住宅の紛争防止のための施策全般のことをいいますが、一般には、平成16年10月に施行された「東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例」(賃貸住宅紛争防止条例)のことを指しています。 この条例では、宅建業者が借主に書面を交付し、退去時の原状回復と入居中の修繕について、 費用負担の伴う「法律上の原則」や「判例により定着した考え方」などを説明することを義務付けています。なお、この条例は、 住建業者が媒介(仲介)・代理を行う東京都内にある居住用の賃貸住宅に適用されます。
アパートを退去した時に敷金が殆ど返ってきませんでした。私は喫煙者なのですが、そのためでしょうか?
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、「喫煙自体は、用法違反、善管注意義務違反にあたらず、クリーニングで除去できる程度のヤニについては、通常の損耗の範囲である、ただし、通常のクリーニングでは除去できない程度のヤニは、通常損耗とはいえないので、その場合のクロスの張替え費用等は賃借人が負担すべきものと考えられる」としています。そして、クロス張替えの場合、毀損部分を含む一面分の張替費用について、経過年数を考慮した残存価値相当額を借主の負担とするのが妥当との考え方を示しています。
アパートを退去するにあたって、宅建業者から「畳の交換とハウスクリーニングは借主の負担です。契約書にも書いてあります。」と言われました。契約書をよく読んでいなかったのですが、判を押した以上、こちらの負担になるのでしょうか?
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、賃貸借契約については、強行法規に反しないものであれば、特約を設けることは契約自由の原則から認められるが、経年変化や通常損耗に対する修繕義務等を賃借人に負担させる特約は、賃借人に法律上、社会通念上の義務とは別個の新たな義務を課すことになるため、1,特約の必要性があり、かつ、暴利でないなどの客観的、合理的理由が存在すること、2.賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること、 3.賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていることという要件を満たしていなければ、その効力を争われることに十分留意すべきであることを示しています。特約の内容をよく見直した上で、宅建業者や大家さんと交渉してみましょう。
今度アパートに入居しますが、契約の前に、不動産屋さんから、原状回復の特約を見せられました。それは大変細かくて、通常の使用による損耗と思われるものなどまで借主負担となっています。物件は気に入っていますが、この特約は「原状回復のガイドライン」とはだいぶ違う気がします。はずしてもらうにはどうしたらよいでしょうか。
前項にもあるように、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、経年変化や通常損耗まで賃借人に負担させる特約については、一定の要件を満たしていなければその効力が争われることに十分留意すべきであるとしています。そのようなことも基に不動産屋さんと交渉し、特約をはずしてもらえないようであれば、トラブル回避のためには契約しないのも方法の1つです。
私は賃料5万円、敷金5万円、礼金5万円で、アパートを借りていましたが、ミュージシャンなので、音がうるさいと周りからよく苦情をいわれました。媒介(仲介)業者を通じて、大家さんから、20万円の立ち退き料を支払うから出て行ってくれといわれたので、出て行くことにしました。管理業者は、媒介業者の子会社ですが、退去時に検査して、原状回復費用に30万円かかるといわれました。確かに床や壁など、音楽の練習をしている際に、少し壊したところがあります。でも、大家さんの頼みで出て行くのだから、原状回復費用は大家さん持ちだと思うのですが、どうでしょうか?
大家さんの頼みで出て行くとはいいながら、契約は合意解約されたものと判断されます。この合意の中に原状回復免除などの取決めがないようですので、退去の問題と原状回復の費用請求とは別問題になります。
そこで、いわれている原状回復費用30万円の請求ですが、ご自分の故意・過失や正常でない使い方などによって、壊したり、傷つけたものがあればその部分についての修繕費用は借主の負担となります。原状回復のガイドライン等を基に、請求内容をよく精査してご自分が負担すべきものを区分し管理業者や貸主と交渉してみてください。
東京23区内のアパートを最近出て、今は他県に住んでいます。敷金は28万円でした。特に汚していないのに、敷金返還額は5万円と原状回復のガイドラインとはかけ離れた内容でした。弁護士に頼らなくても、少額訴訟は可能と聞きましたが、具体的にどこへどう起こせばいいのでしょうか。
少額訴訟は、原則として、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に起こすことになります(敷金返還請求のように、不動産に関する請求の場合にはその不動産の所在地を管轄する簡易裁判所にも訴えることができます)。ご質問のケースでは、「東京簡易裁判所」でよいと思われますが、詳しくは最寄りの簡易裁判所にご確認ください。また、訴訟を起こすには、訴状や申立手数料、郵便切手などが必要ですが、訴状の書式やその記入例などは裁判所のホームページでも入手できますので参考にしてみてはいかがでしょうか。
アパートを借りて4年近く住んでいます。家賃は月10万円、保証金は60万円で、敷引は45万円です。来月、出るつもりですが、隣に住んでいた人が最近出て行った際は、45万円引かれた上に、原状回復費用も殆どその人の負担だったそうです。次の部屋を借りるのに、返還額が殆どゼロでは困ります。取り戻す方策はないでしょうか。
敷引は、保証金(敷金)返還の際に一定額または一定割合を必ず差し引くこととする特約のことをいいますが、その趣旨、目的などがあまり明確ではないため、敷引額が高額であったり、敷引割合が高率であったりした場合等にはその有効性が争われる場合があります。退去するにあたって、まず、部屋の状況についてきちんと大家さんと立ち会って確認し合い、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」などをもとにしっかりと交渉をしてください。
アパートを借りて住んでいました。家賃は月7万円、保証金は42万円、敷引が35万円です。先月、私以外の入居者の火の不始末からアパートが全焼し、今は別なアパートに住んでいます。自分の都合で出たのではない以上、42万円の保証金は全額戻ってくるものと考えていいですか。
建物が全焼し滅失してしまった場合には、部屋の修繕をする必要はありませんので、賃料の滞納等がなければ、保証金は全額返還されると考えてよいと思います。なお、阪神・淡路大震災の際の敷引金の返還をめぐり、最高裁判所は平成10年9月3日、「一般に、賃貸借契約が火災、震災、風水害その他の災害により当事者が予期していない時期に終了した場合についてまで敷引金を返還しないとの合意が成立していたと解することはできないから、他に敷引金の不返還を相当とするに足りる特段の事情ないが限り、これを賃借人に返還すべきものである。」との判断を示しています。
マンションの大家なのですが、媒介(仲介)業者が契約時に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の写しを借主に交付しています。自分はガイドラインの考え方の一部に納得できないところがあるので、それをやめてほしいのですが、そうすると仲介をしないといわれました。どうすればよいのでしょうか。
原状回復について、借主に特別な負担を課すような特約を設ける場合には、その旨を明確に契約書面に定めたうえで、借主の十分な認識と了解をもって契約することが必要です。その不備でトラブルとなることが多いことから、媒介業者はトラブル予防のためにガイドラインの写しを交付しているのだと思われます。もし東京都内の物件だった場合、媒介業者には条例による説明の責務があります。
所有するマンションの賃貸の媒介(仲介)と管理を不動産会社に任せています。借主が退去する際、その不動産会社は厳しくチェックせずに借主の原状回復負担分を決め、さらにお金のかかる修復工事もして困っています。どうすればよいでしょうか。
いずれも賃貸の媒介(仲介)という宅建業法の問題ではありませんが、借主の原状回復への不満と、不動産会社の修復費用支出要求への不満とに、分けて考えたほうがよいでしょう。
原状回復のガイドラインによっても、借主は過失等で壊した部分について原状回復義務がありますが、不動産会社の原状回復義務分の認定行為は、借主にすればオーナーがしているのと同じです。その認定が甘いと思うなら、不動産会社に改めるよう指示すること、委託をやめご自分で認定と交渉をすること、別の会社に頼むこと、のいずれも可能です。その結果、今より厳しい認定となっても構いませんが、借主は、負担過大=返還過小、と思えば、オーナーへ敷金返還を請求するでしょうし、その場合、裁判の可能性もあります。
借主の原状回復負担以外の工事は、資産維持のための出費として、不動産会社はそれをしないと次の借主を見つけにくくなると言っていると思います。しかし、どこまでの修復工事をするのかを決めるのはオーナーであるあなたです、指示に従わない不動産会社との管理契約を解除することはできます。
事務所ビルを貸していますが、テナントが退去することになり、原状回復を求めたところ、 「通常損耗だから負担しない」と言われました。相手方の言い分が正しいのでしょうか?
居住用の建物の賃貸借については、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で、原状回復は「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されていますが、事務所ビル等の事業用の建物の賃貸借に関しては、裁判例で「オフィスビルの場合、通常損耗を含めた原状回復費用を賃借人の負担とすることは経済的合理性があり、原状回復条項に基づき、賃借人には通常の使用による損耗、汚損も除去し原状回復する義務がある」とするもの(東京高判平成12年12月27日)、「賃借人は本件貸室内の物品等一切を搬出し、賃借人の設置した内装造作諸設備を撤去し、本件貸室を原状に修復して賃貸人に明け渡すとする条項は、通常損耗分についてまで賃借人に原状回復義務を認める特約を定めたものと解することはできない」とするもの(大阪高判平成18年5月23日)などがあります。
店舗用にビルを借りました。貸主にシャワーを設置する許可を求めたところ、貸主が自分の費用で設置してくれました。2年間の契約でしたが、2か月で退去すると言ったら、貸主は、シャワーの設置費用は敷金から引くと言っています。それは許されるのでしょうか。
シャワーを設置することについて、貸主・借主間でどのような取決め(合意)がなされたのでしょうか。原則は、その取決めに従って処理されることになります。一般には、シャワーの設置により賃貸物件の価値は上がると考えられますので、何の取決めもなく、貸主が自分の負担でシャワーを設置したのであれば、その費用を借主に請求することはできないと思われます。
住んでいるアパートが空き巣に入られ、窓ガラスを壊されました。鍵をちゃんとかけていたのですが、窓ガラスの修理代は賃借人である私の負担になるのでしょうか。
貸主には、建物の使用及び収益に必要な修繕をする義務があります(民法606条1項)。したがって、借主が自らの過失で窓ガラスを壊したなどといった特段の事情がない限り、賃貸人に窓ガラスを修繕する義務があります。台風などで、窓ガラスが割れた場合も同様に考えます。ただし、窓に雨戸があるのに閉めておかなかったことでガラスが割れたような場合は、管理義務違反があるとして借主の負担となることもあります。